收藏

ルイヴィトンエピジッピーオーガナイザー編集

「よい婿殿をもって仕合せに思っている」  という旨《むね》の通りいっぺんの文章にするつもりだったが、書くうちに変に情熱が乗りうつってきて、思わぬ手紙になった。 「あなたを、わが子よりも愛《いと》しく思った」  とか、 「帰館してすぐ手紙をかくというのも妙だが、書きたくなる気持をおさえかねた」  とか、 「わしはすでに老いている。これ以上の望みはあっても、もはやかなえられぬ。あなたを見て、若いころのわしをおもった。さればわしが半生かかって得た体験、智恵、軍略の勘どころなどを、夜をこめてでも語りつくしたい」  とか、 「尾張は半国以上が織田家とはいえ、その鎮定が大変であろう。兵が足りねば美濃へ申し越されよ。いつなりとも即刻、お貸し申そう。あなたに対して、わしにできるだけのことを尽したい気持でいっぱいである」  とかいう、日ごろ沈《ちん》毅《き》な道三としては、あられもない手紙だった。  自分の人生は暮れようとしている。青雲のころから抱いてきた野望のなかばも遂げられそうにない。それを次代にゆずりたい、というのが、この老雄の感傷といっていい。  老工匠に似ている。この男は、半生、権謀術数にとり憑《つ》かれてきた。権力慾というよりも、芸術的な表現慾といったほうが、この男のばあい、あてはまっている。その「芸」だけが完成し作品が未完成のまま、肉体が老いてしまった。それを信長に継がせたい、とこの男は、なんと、筆さきをふるわせながら書いている。  信長は帰城し、例の男根の浴衣《ゆかたびら》をぬぎすて、湯殿に入った。  出てきて酒をもって来させ、三杯、立ったままであおると、濃姫の部屋に入った。 「蝮《まむし》に会ってきたぞ」  と、いった。 「いかがでございました」
表示ラベル: