ルイヴィトンタイガバッグ
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null 娘が声を震わせる。保憲は無言のまま、かすかに眉を上げた。 「父君……そうか、あなたは将門公の」  つぶやいた保憲を、娘は炎のような眼差しで睨んだ。それも無理からぬことだった。将門の軍が壊滅して以来、朝廷は徹底的に将門の残党追捕を行っている。  将門の一族は、女子どもまで徹底的に掃討された。温情をかけて見逃すには、将門の血族に対する恐怖はあまりにも大きすぎたのだ。こうして都にたどり着くまでに、この娘が、どれほどの地獄をかいくぐってきたのか、保憲には想像もできなかった。 「将門公の怨霊が出るという噂が広まれば、奴らは、これまで以上に眠れぬ夜を過ごすことになるだろう。そうやって彼らを恐怖で弱らせて殺す。それがわたしの復讐だ」 「……なるほど、父上が不安がる気持ちもわからないではないな。たしかにわたしは甘いようだ。いつかほんとうにこれで身を滅ぼすのかもしれない」  思わず保憲は苦笑していた。  突然、自嘲するように笑い始めた保憲を、娘は怪訝な顔つきで見つめた。 「……なにを言っている?」 「わたしは愚かだと言っているのさ。わたしにはあなたを助ける理由がない。むしろわたしはあなたの敵だ。だが、あなたが偶然わたしと同じ方角に旅をするというのなら、それをあえて止めないことにしよう」 「ほんとうに愚かだな、おまえは。わたしは旅をするつもりなどはない。貞盛たちに復讐するまでは泥を喰らってでも都にとどまる」 「——将門公が、無事に逃げ延びているとしてもか?」 「なんだと」  娘は驚いたように目を大きく開き、そして首を振った。吐き捨てるように言う。 「馬鹿な。わたしは何人もの兵に聞かされたのだ。戦場で、父上の額を矢が貫くのを見たと——」 「わたしも見たよ。つい先ほど、あなたの身体を何本もの矢が貫くのをね」 「それは」  反論を試みようとして、結局、娘は沈黙した。保憲は静かに首を振った。