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ルイヴィトンベルトメンズ中古編集

 それと同時に一台の黒塗《くろぬ》りの車が音もなく桟橋《さんばし》を走り抜け、接岸されたばかりの船のそばに止まった。  車の中から黒背広の男たちと、アポロキャップをかぶり、トランクをかかえた用心棒らしい男が降り立った。車のルームライトにチラリと照らされたアポロキャップの男は、まぎれもなく長島茂雄だった。 「まさか……」  神崎が思わず叫んだ。 「間違いないな、フフフ」  二田川が冷ややかに笑い、撃鉄《げきてつ》を起こした。 「なんということだ」  村山がロージンをたたきつけ、涙ながらに吐《は》き捨てた。 「こんなもんですよ、スポーツマンの正体って」  二田川が皮肉《ひにく》っぽく言った。 「うるさい!」  神崎も溢《あふ》れる涙を、どうすることもできなかった。  かつて多摩川《たまがわ》で純粋に白球を追った長島が、あの世紀のスーパースターが、一方で、このような裏の世界にかかわっていたとは……。  そう考えただけで、ひたすら青春を野球に賭《か》けた神崎の人生までもが、泥靴《どろぐつ》で踏《ふ》みにじられてゆくような気がしてならなかった。戦後の青少年にとって長島の存在が夢であったように、神崎の中でも長島は夢だった。たとえ長島のせいで球界を石もて追われたいきさつがあってもなお、神崎は長島を愛していたのだ。  神崎は、自分の中で培《つちか》われた長島に対する憎悪《ぞうお》が、愛情と紙一重のものだったことを、今、はっきりと感じとっていた。  トランクを確認するために灯《とも》された懐中電灯の光りの中に、再びアポロキャップの男が浮かびあがった。その男の、青々としたヒゲソリあとと、Tシャツの胸にのぞく胸毛を見て、神崎と村山はうなずきあった。  ボス格とおぼしき男が、船から降りた男の差し出す冷凍マグロをナイフで一切れ切り取り、口に含《ふく》んだ。 「上物だな」
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